萬(よろず)鉄五郎(てつごろう)は1885年(ねん)11月(がつ)17日(にち)に岩手(いわて)県(けん)土沢(つちざわ)で生まれ(うまれ)た。1903年(ねん)に上京(じょうきょう)し、次いで(ついで)1906年(ねん)に渡米(とべい)し、そこで短期間(たんきかん)ボーイとして働い(はたらい)た。1907年(ねん)に東京(とうきょう)美術(びじゅつ)学校(がっこう)に入学(にゅうがく)し、画家(がか)になる決心(けっしん)をする。そして卒業(そつぎょう)制作(せいさく)として「裸体(らたい)美人(びじん)」を描い(えがい)た。

「裸体(らたい)美人(びじん)」は日本(にほん)でのフォーヴィズムの最も(もっとも)早い(はやい)例(れい)とされている。とても強い(つよい)色(いろ)で描か(えがか)れていて、中心(ちゅうしん)に赤い(あかい)ズボンを履い(はい)た女性(じょせい)の姿(すがた)が描か(えがか)れている。上半身(じょうはんしん)は裸(はだか)で、靴(くつ)は履い(はい)ていない。体(からだ)の線(せん)はとても太く(ふとく)、顔(かお)は細かく(こまかく)描か(えがか)れてはおらず、太い(ふとい)線(せん)でできている。体(からだ)の周り(まわり)に草(くさ)が緑(みどり)と黄色(きいろ)で描か(えがか)れているのだが、とても力強く(ちからづよく)、生き(いき)物(もの)のようにも見える(みえる)。また、遠く(とおく)には空(そら)や木(き)などが描か(えがか)れているが、それらの色(いろ)も強く(つよく)、一見(いっけん)、日本(にほん)の風景(ふうけい)ではない印象(いんしょう)を受ける(うける)。

私(わたし)はこの絵(え)を初めて(はじめて)見(み)たとき、すぐにゴッホやマティスを思い出し(おもいだし)た。とても日本(にほん)人(じん)の絵(え)には見え(みえ)なかった。萬(よろず)自身(じしん)、影響(えいきょう)を語っ(かたっ)ているのであるから、当然(とうぜん)だろう。しかし、よく見る(みる)と、西洋(せいよう)から影響(えいきょう)を受け(うけ)た西洋(せいよう)的(てき)な絵(え)の中(なか)に、萬(よろず)の故郷(こきょう)である東北(とうほく)の空気(くうき)、日本(にほん)的(てき)なものがあるように思える(おもえる)。その意味(いみ)では、「水着(みずぎ)姿(すがた)」という晩年(ばんねん)の作品(さくひん)が特に(とくに)興味深い(きょうみぶかい)。和傘(わがさ)のモチーフは言うまでもない(いうまでもない)が、波(なみ)の表し(あらわし)方(かた)は浮世絵(うきよえ)を思わ(おもわ)せる。萬(よろず)鉄五郎(てつごろう)は西洋(せいよう)的(てき)な描き(えがき)方(かた)を通して(をとおして)、自分(じぶん)自身(じしん)の持っ(もっ)ている日本(にほん)的(てき)なものを表現(ひょうげん)した画家(がか)なのではないだろうか。